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【PHILIPPINES】年の途中で帰任する駐在員の確定申告

2023.03.24

駐在員の確定申告の概要を以前の記事で紹介しましたが、「年の途中で帰任する場合の取り扱い」に関して特に質問いただく機会が多いため、本記事にて実務上の対応を含めて紹介します。

1. 確定申告の要否

日本人駐在員の場合、出向先のフィリピン拠点で給与が支給され、加えて出向元の日本本社からも給与や留守宅手当を支給されているケースが多く見られます。以前の記事で紹介したとおり、日本本社から支給された給与や留守宅手当も「フィリピン国内源泉所得」と見なされ、フィリピンでの個人所得税の対象になります。フィリピン拠点から支給された給与は源泉徴収及び年末調整で個人所得税を納付するものの、日本本社から支給された給与や留守宅手当は源泉徴収及び年末調整に含まれていません。従って、確定申告により合算の所得を計算し、追加の個人所得税を納付する必要が生じます。

年の途中で帰任する場合でも、上記ロジックに変わりはありませんので原則として確定申告が必要となります。ただし「フィリピン国内源泉所得」が所得税の対象のため、帰任後に日本で支給される給与はフィリピンの所得に含める必要はありません。例えば4月末で帰任する場合、1~4月にフィリピン拠点から支給された給与+日本本社から支給された給与や留守宅手当をフィリピン国内源泉所得として扱い、確定申告することになります。

2. 日比租税条約上の「183日ルール」とは

一般的に良く知られている「183日ルール」を理由に、その年のフィリピン滞在期間が183日以内であれば、日比租税条約の短期滞在者免税が適用できるのではないか、というお問い合わせも頻繁にいただきます。しかしながら、日比租税条約の第15条(2)に、短期滞在者免税を適用するためには以下3要件すべてを満たすことが必要と定められています。

  1. 報酬の受領者が当該年を通じて合計183日を超えない期間当該他方の締約国内(フィリピン)に滞在すること。
  2. 報酬が当該他方の締約国(フィリピン)の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われること。
  3. 報酬が当該他方の締約国内(フィリピン)に雇用者の有する恒久的施設又は固定的施設によって負担されるものでないこと。

帰任する年のフィリピン滞在期間が歴年で183日以内であった場合、要件aは満たすことになります。一方で、駐在員としてフィリピン拠点に赴任している限り、そのフィリピン拠点から少なからず給与を受け取っているかと思います。従って、その時点で要件bを満たさないことになりますので、日比租税条約の短期滞在者免税は適用できず、フィリピンでの個人所得税の対象となります。また、駐在員として数年間居住する前提で赴任している場合、そもそもフィリピン居住者として扱われ、短期滞在者免税の対象外であると考えられます。個人所得税の対象ということは、先述のとおり原則として確定申告が必要になります。

3. 確定申告のタイミング

個人所得税の確定申告は対象年の翌年4月15日が期限のため、例えば2023年分の確定申告は2024年の4月15日までに実施することになります。年の途中で帰任する場合でも、何らかの理由で帰任以降に所得が生じる可能性があることから、帰任時点ではなく翌年1月以降に確定申告をすることを推奨しています。同年内の確定申告は管轄税務署に受け付けてもらえないことがある他、通年をカバーしていないことから帰任以降の所得発生を疑われ、再度の確定申告が必要になる可能性が残ることが背景にあります。

日本人駐在員の場合、日本本社がフィリピン側の確定申告時の追加所得税額を負担するケースが多く見受けられます。日本本社が負担した所得税分は、給与を追加で支給していることと実質的には同じですので、所得税負担に対しても所得税が課されることになります。

注意点として、対象の駐在員が帰任し日本の居住者となった後に、日本本社がフィリピンでの所得税分の負担をした場合、フィリピン側だけではなく日本側でも所得税が課されるリスクがあります。二重課税のリスクに気づかずに帰任手続きを進め、事後的に日本の当局から指摘を受ける事例もありますので、あらかじめ専門家に相談し計画的に進めることをお勧め致します。

朝日ネットワークスフィリピンの紹介

朝日ネットワークスフィリピンでは、これまで数多くの日系企業の駐在員確定申告を支援して参りました。日系企業でよく見られる事例をノウハウとして幅広く有していますので、お困りの際はぜひお気軽に弊社までお問い合わせください。

朝日ネットワークスフィリピン 米国公認会計士 安藤拓也 tando@asahinet.ph