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【PHILIPPINES】駐在員の確定申告

2022.08.19

 前回の記事では、フィリピンの個人所得税の概要についてご紹介しました。原則としては、月2回の給与支給時および賞与支給時に所得税を源泉徴収し、加えて年末調整を実施することにより、従業員の所得税納付は完結します。しかしながら、日本法人からも給与を受け取る駐在員など、複数の拠点から給与を受け取る場合には、別途確定申告が必要になる可能性があります。

 本記事では、フィリピン駐在員の確定申告について、その要否を判断するポイントと注意点についてご紹介します。なお本記事でご紹介する内容は、一般的な駐在員のケースを想定したものであり、実務上は各駐在員の状況を考慮して個々に判断することになります。適宜専門家に相談しアドバイスをお受けになるようお願いいたします。

1. フィリピン税法上の課税区分

 フィリピン税法において、日本人を含む外国人は以下いずれかの課税区分に該当し、その区分に応じた所得税が課されることとされています。

① 居住外国人:フィリピン国内源泉所得に累進課税
② 非居住外国人(歴年の滞在日数180日超):フィリピン国内源泉所得に累進課税
③ 非居住外国人(歴年の滞在日数180日以下):フィリピン国内源泉所得に一律25%課税

 課税区分はフィリピンでの勤務の契約期間や目的に応じて判断され、駐在員の場合は上記①または②に該当し、「フィリピン国内源泉所得に累進課税」されることになります。

 なお、出張者の場合は滞在日数に応じて上記②または③に該当しますが、日比租税条約第15条により、暦年の滞在日数が183日以下であれば短期滞在者免税が適用されるため、フィリピンでの所得税課税はありません(厳密には他にも短期滞在者免税の適用要件があります)。滞在日数が183日超の場合は上記②に該当し、フィリピン国内源泉所得に累進課税されることになります。

2. 「フィリピン国内源泉所得」の範囲

 「フィリピン国内源泉所得」は、フィリピンでの労働の対価として得られる所得のことを指します。そのため、駐在員がフィリピン法人から支給される給与だけではなく、その期間に日本法人から駐在員に対して支給される給与(留守宅手当等含む)も、フィリピン国内源泉所得と見なされることが一般的です。従って、フィリピン法人と日本法人から支給される給与を合算した金額が、フィリピン国内源泉所得として所得税の対象となります。

 なお、駐在員は一般的に日本の非居住者となり、日本国内で稼得した「国内源泉所得」のみが日本での課税対象とされます。日本国内源泉所得には、不動産所得や配当所得等が挙げられます。

 駐在員が日本法人の役員であり、かつフィリピン法人の役員も兼務する場合、日比租税条約第16条により、日本法人の役員報酬その他これに類する報酬等については、日本でのみ課税対象とされ、フィリピン国内源泉所得には含まれません。フィリピンにおいては、フィリピン法人の役員報酬のみをフィリピン国内源泉所得として扱います。

3. 確定申告と納税

 フィリピン法人における源泉徴収は、フィリピン法人から支給される給与のみを対象として実施しているため、日本法人から支給される給与が考慮されていません。そのため、日本法人から支給される給与を合算してフィリピン国内源泉所得を再計算し、別途税務署に対して確定申告を行う必要があります。その際、合算のフィリピン国内源泉所得から算出された所得税額と、源泉徴収により納付済みの所得税額の差額を税務署に納付します。確定申告の期限は対象年の翌年4月15日とされているため、2022年の所得を例にした場合、2023年4月15日までに確定申告および所得税の納付を行うことになります。

 よくある質問として、年の途中でフィリピンに赴任または日本に帰任する駐在員についても、駐在期間中に日本法人から支給される給与が源泉徴収の対象となっていないため、赴任および帰任する年の確定申告が原則として必要になります。

 また、駐在員の確定申告は日比双方の国内法および租税条約の理解が欠かせず、かつ日本本社の給与情報を把握する必要があるため、フィリピン人従業員では対応が難しい場合があります。駐在員とフィリピン人従業員の給与格差の観点からも、外部の専門家に委託し確定申告を実施するのが望ましいと考えられます。

弊社サービスの紹介

 朝日ネットワークスフィリピンでは、フィリピン進出時の会社設立サポート、設立後の会計・税務申告のサポートに加え、その他関連業務のコンサルティングサービスを提供しております。駐在員の確定申告支援も承っておりますので、ぜひお気軽に弊社までお問い合わせください。

 朝日ネットワークスフィリピン 米国公認会計士 安藤拓也 tando@asahinet.ph