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THAILAND JAPAN 移転価格 

タイの移転価格税制 ②【タイ移転価格税制の概要】

2013.10.04

★このブログは朝日税理士法人(東京) の原稿提供により掲載しております。

タイの移転価格税制第2回は、前回に引き続き、タイの移転価格税制の概要について見て行きます。

タイは、インドネシア、マレーシア、ベトナム等がこれまでに移転価格税制を整備・発展させてきたのに対し、移転価格関連の法制化が不十分で、その具体的な運用は、税務当局にあたる歳入局の通達(税務調査官の課税所得算定の指針)に拠っているというのが現状です。したがって、税務調査は調査官の裁量の余地が大きく、不公平で透明性に欠けるという不満が納税者側から聞かれます。

もっとも、今年(2013年)2月の日経新聞では年内にもタイの移転価格税制が法制化されると報道されていましたので、実現が期待されます。

さて、タイには低廉譲渡や高価買入れに対応する法令(内国歳入法における規定)があるものの、移転価格税制の具体的な運用についての指針は歳入局の通達(No. Paw.113)によってカバーされています。

① 内国歳入法の移転価格に係る規定

タイの税法である内国歳入法の以下の条文で、時価取引とは認められないグループ会社間取引に対して、税務調査官は公正価額での課税を行う権限を与えられています。内国歳入法は法律ですので、法的強制力があるのは言うまでもありません。

  • 歳入法第65条の2  低廉譲渡の場合のみなし所得課税
  • 歳入法第65条の3   高額購入の場合の損金否認
  • 歳入法第79/3条    低廉譲渡の場合の付加価値税(VAT)の再計算と追加納付

② 歳入局通達(No. Paw.113)の移転価格に係る規定

当通達は、税務調査官が税務調査を行うに際し、または、納税者への指導に際し、市場価格と認められる移転価格に基づき法人税の課税所得を算定するための指針を示すものです。

  1. 法人の課税所得算定は、歳入法に基づき行う必要がある。その際、発生主義により収益及び費用を認識する。
  2. 取引が正当な理由なく市場価格(”market price”)で行なわれていない場合、課税所得の算定に際し、市場価格に調整しなければならない。調整が行われていない場合には、税務調査官が課税所得を更正する。なお、市場価格とは独立企業間取引(経営、支配、直接・間接の資本関係が存在しない取引)で設定される価格をいう。
  3. 市場価格の算定については、独立価格比準法(CUP法)、再販売価格基準法(PR法)、原価基準法(CP法)、国際的に認められているその他の方法のうちいずれか1つに従う。
  4. 税務調査官は税務調査において、市場価格算定のための収益および費用の計算方法に関して、法人が保管する以下の書類を検証する。

 

  1. グループ関係会社(注1)の組織図および各会社の事業内容
  2. 予算、事業計画、将来財務予測
  3. 事業戦略とその戦略の採用理由
  4. 売上規模および損益の状況、並びに、グループ関係会社との取引の内容
  5. グループ関係会社と国際取引を行う理由
  6. 各関係会社の機能、所有資産および負担するリスクを考慮した上での移転価格算定方針、各製品の収益性、各事業の市場情報、及び、利益への貢献
  7. その移転価格算定方法を採用した理由
  8. 複数の移転価格算定方法がある場合に、他の移転価格算定方法を採用しなかった理由
  9. グループ関係会社取引に係る基本原則と交渉過程
  10. 価格決定に係るその他の書類(もし、あれば)

 (注1) グループ関係会社:経営、管理、資本関係についてお互いに直接・間接的な関係を有する法人で構成されるグループ内の法人をいう。

 上記の文書と記録が充分に整備され、それらが市場価格算定について適切である場合、税務調査官は法人の計算方法を受け入れる。

5.法人が移転価格の決定に際し事前確認(APA)(注2)を希望する場合には、歳入局に対して書面で申請を行うことができる。法人は、その事前確認で示された条件等に従って取引を行う必要がある。事前確認(APA)は、二国間及び多国間APAのみ認められており、タイ単独でのAPA(ユニラテラルAPA)は認められていない。

 (注2) 事前確認(APA):企業が歳入局に申し出た市場価格の算定方法およびその妥当性を説明する資料について、歳入局がその合理性を認めた場合には、企業が一定の前提条件の下でその内容に従って取引を行っている限りにおいて、移転価格課税を行わないとする事前合意である。タイでは、2010年にAPAに関するガイダンスが公表されている。

以上、タイの移転価格税制を概観しましたが、現時点において、移転価格に係る追徴課税のリスクを最小限に留めるためには、少なくても現行の歳入法・歳入局通達に基づいた移転価格算定方法に係る文書の作成と保管が欠かせないものと考えます。

以上