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PHILIPPINES 会計・税務
【PHILIPPINES】外資規制
2024.11.25
フィリピンでは憲法や特定法に基づき、外国人や外国企業による特定分野や事業への国内投資に制限が設けられているものの、一般論としてフィリピン政府は海外からの投資を積極的に受け入れる姿勢を維持しています。1986年のアキノ政権以降、投資促進による経済成長を目指す方針は継続しており、ドゥテルテ政権時には会社法や特定法の改正により外資規制が大幅に緩和されました。現マルコス政権も税制改正を通じて、外国企業の意向を反映しようとしています。フィリピンの外資規制の緩和が進む一方で、依然として重要な規制も残っており、フィリピン進出を検討する企業にとっては留意すべき事項です。本記事では、フィリピンの外資規制について説明します。
1. 資本金制度の概要
外資規制の具体的な内容に入る前に、フィリピンの資本制度について簡単に紹介します。フィリピンの会社法では、資本制度として資本金の種類や各要件が定められています。株式会社はこの規定に従い、資本金の引受や払込を行う必要があります。以下に、資本金の種類とその概要を示します。
法人設立に係る資本金要件は、上記の払込資本金を基準に判定されることになります。そして、資本金の金額、出資割合、議決権比率、実際の支配構造などを基に外資規制の判定を行います。
2. 外国投資法
外国投資法は、大枠としてはフィリピン国家の産業や社会の発展に貢献する外国投資を歓迎しています。輸出型企業(export enterprise)については、雇用を創出し外貨を獲得する効果が期待できることから、原則として外国資本100%出資が認められています。同法では外資規制を解釈する上で重要な定義も規定されているため、ポイントとなる点を紹介します。
(a) フィリピン国民(Philippine National)
フィリピン国民である個人、またはフィリピン国民が完全に所有する国内のパートナーシップまたは団体を指します。法人に関しては、フィリピンの法律に基づいて設立され、発行済み議決権付き資本金株式の少なくとも60%がフィリピン国民によって所有され、保持されているものを指します。ただし、法人およびその外国人株主が株式を所有する場合、その法人および関連企業の発行済み議決権付き資本金株式の少なくとも60%がフィリピン国民によって所有され、保持されていること、さらに両法人の取締役会メンバーの少なくとも60%がフィリピン国民である場合に限り、それらの法人は「フィリピン国民」とみなされます。
(b) 輸出型企業(export enterprise)
製品を生産して販売する、または国内市場にサービスを提供する企業を指します。ただし、その生産物の一部を輸出する場合、少なくともその60%以上を一貫して輸出していない場合は、輸出企業とはみなされません。
(c) 職業の実践(practice of profession)
登録され、適切な免許を持つ専門職従事者または特別一時許可証を所持する者が、専門職の規制法の範囲内で提供および実行する活動や業務を指します。
また同法では特定分野や事業については外資参入を制限しています。こうした規制はネガティブリストとして公表され、数年ごとに改正されることになっています。
3. ネガティブリストによる業種ごとの外資規制
以下では、ネガティブリストに記載され、出資比率が規制されている業種について、表形式で説明します。ネガティブリストはリストAとリストBの2つに分類されます。リストAは、憲法および特別法に基づき外国資本の参入が制限される業種を示しており、出資比率ごとに規制される業種が明記されています。
次に、リストBは安全保障や中小企業の保護などを目的に、外国資本の参入が制限される業種を定めています。
4. 外資企業による国内市場向け事業および輸出事業
国内市場向け企業とは、フィリピン国内で製品の販売やサービスの提供を主な目的とする企業で、上記の輸出型企業に該当しない企業を指します。通常、外国資本が40%を超える国内市場向け企業は、法人設立時にフィリピン国内の銀行に最低20万ドル相当以上の資本金を払い込む必要があります。この最低払込資本金は運営費用として使用できます。
また、ネガティブリストBにも記載がありますが、以下の外国投資法の特例として、以下のいずれかの条件に該当する場合には最低払込資本金は10万ドルへの引き下げが認められています。
・科学技術省が定める先端技術を有する場合
・科学技術省等からスタートアップ企業として承認されている場合
・直接雇用する従業員の過半数且つ15人以上がフィリピン人である場合
輸出型企業については、国内市場向けの企業に比べて外資規制が緩和されており、払込資本金の要件が課されていません。
5. 外資企業による小売事業
ネガティブリストAにも記載されている通り、払込資本金が2,500万ペソ未満の小売業には外資企業の参入が認められていません。つまり、外資が小売業に参入するためには2,500万ペソ以上の払込資本金が必要となります。*¹
小売業とは、消費者に直接商品を販売する行為を指し、物販やサービスを行う店舗の他、飲食、ECなども含まれます。2021年12月に小売業自由化法が改正され、外資企業が小売事業を行う場合の最低払込資本金が従来の250万ドルから2,500万ペソに引き下げられました。また、同改正により、外資企業が複数の店舗で小売業を営む場合、1店舗あたりの最低投資額が83万ドルから1,000万ペソ以上と規制が緩和されました。この変更の詳細については、過去の記事「【PHILIPPINES】小売自由化法の改正」をご参照ください。
*¹小売自由化法の施行規則において、外資小売業の定義として出資比率が40%超である旨が定められています。従って、40%以下の出資であれば外資小売業と見做されず、資本金および店舗あたり投資額の要件が課されないと解釈できます。
6. 最後に
フィリピンの外資規制について、理解を深めていただけたでしょうか。フィリピンでは、特定の業種に対して厳しい外資規制が存在する一方で、外国直接投資を促進するための規制緩和も進められています。進出する事業の種類や投資対象に応じて、最新の規制情報を確認し、適切に対応することがフィリピンでのビジネス展開には重要です。本記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
朝日ネットワークスフィリピン 日本公認会計士 篠原之典 yshinohara@asahinet.ph