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PHILIPPINES
【PHILIPPINES】フリンジベネフィット税の概要
2023.03.24
フィリピンではフリンジベネフィット税(FBT: Fringe Benefit Tax)が導入されており、企業が従業員に提供する金銭以外の福利厚生や手当に対して課税されます。多くの日系企業に関係する税金であるものの、日本人にとってあまり馴染みが無く税務申告・納税が見落とされがちで、税務調査で指摘されるケースも目立ちます。本記事では、フィリピンにおけるフリンジベネフィット税について概要を紹介します。
1. フリンジベネフィット税とは
フリンジベネフィット税は、企業が従業員に対して通常の給与や賞与等とは別に福利厚生や手当を支給した際に、その支給額に課せられる税金です。通常の給与や賞与等であれば個人所得税が課せられるのに対し、金銭以外で追加的に支給される福利厚生等に対しては個人所得税が課せられません。従って、公平な課税や税収確保を主な目的としてフリンジベネフィット税が導入されています。なお個人所得税とは異なり、フリンジベネフィット税は福利厚生等を支給する企業側が負担します。
フリンジベネフィット税の対象となる福利厚生等として、主に以下が挙げられています。通常であれば従業員が負担すべき私的費用を企業が負担した際に、フリンジベネフィット税が課されることになります。
- 住居費
- メイド・ドライバー等の家事要員への給与
- 私用の車両費
- 従業員貸付時の金利が市場金利を下回る場合にその差額
- 従業員個人のために企業が負担する会費
- 私用の外国旅行費
- 休暇費用
- 従業員またはその扶養家族への教育支援
- 生命保険や健康保険等の損害保険料、又はその類似で、法律で認められている金額を超えるもの
- 私用の一時帰国費
なお、Managerial and Supervisory(管理職、スーパーバイザー職)に支給される福利厚生等のみがフリンジベネフィット税の対象とされており、それ以外のRank and File(非管理職)に支給される場合はフリンジベネフィット税の対象外です。
2. フリンジベネフィット税の計算方法
フリンジベネフィット税は、次の計算式に基づき算出します。
フリンジベネフィット税 = (福利厚生等の支給額 or 金銭価値)÷ 65% x 35% |
- ステップ-1:福利厚生等の金銭価値で評価額を算出する。
- ステップ-2:本来の想定課税所得を算出するため、65%で割り戻すグロスアップ計算をする。
- ステップ-3:個人所得税の最高税率に相当する35%を乗じる。
なお特例として、住居費・私用の車両費に関しては、福利厚生等の支給額 or 金銭価値の50%を評価額として用いることとされています。
【フリンジベネフィット税の計算例①】駐在員コンドミニアム家賃 PhP50,000/月の場合
- ステップ-1:評価額 PhP50,000 x 50% = PhP25,000
- ステップ-2:グロスアップ PhP25,000 ÷ 65% = PhP38,462
- ステップ-3:フリンジベネフィット税 PhP38,462 x 35% = PhP13,462
【フリンジベネフィット税の計算例②】私用の外国旅行費 PhP100,000の場合
- ステップ-1:評価額 PhP100,000 x 100% = PhP100,000
- ステップ-2:グロスアップ PhP100,000 ÷ 65% = PhP153,846
- ステップ-3:フリンジベネフィット税 PhP153,846 x 35% = PhP53,846
3. 個人所得税との比較
個人所得税の代わりにフリンジベネフィット税が課されるのであれば、結果としてどちらが総コストとして少なく済むのかという疑問が生じます。ここでは、①給与や報酬として支給する場合(個人所得税の対象)、②福利厚生として支給(フリンジベネフィット税の対象)場合の総コストを比較しています。なお本事例では総コストを単純比較するため、個人所得税率30%を控除したネット給与がPhP50,000/月であると仮定し、その他の要素は排除して計算しています。
【計算例-1】駐在員コンドミニアム家賃 PhP50,000/月の場合
①給与として支給 | ②福利厚生として支給 | |
(a) 給与/福利厚生支給総額 (c ÷ 70%) | PhP71,429 | PhP50,000 |
(b) 個人所得税 (a x 30%) | PhP21,429 | – |
(c) 手取支給額 | PhP50,000 | PhP50,000 |
(d) フリンジベネフィット税評価額 (c x 50%) | – | PhP25,000 |
(e) グロスアップ金額 (d ÷ 65%) | – | PhP38,462 |
(f) フリンジベネフィット税 (e x 35%) | – | PhP13,462 |
(g) 総コスト (a + f) | PhP71,429 | PhP63,462 |
【計算例-2】私用の外国旅行費 PhP100,000の場合
①給与として支給 | ②福利厚生として支給 | |
(a) 給与/福利厚生支給総額 (c ÷ 70%) | PhP142,857 | PhP100,000 |
(b) 個人所得税 (a x 30%) | PhP42,857 | – |
(c) 手取支給額 | PhP100,000 | PhP100,000 |
(d) フリンジベネフィット税評価額 (c x 100%) | – | PhP100,000 |
(e) グロスアップ金額 (d ÷ 65%) | – | PhP153,846 |
(f) フリンジベネフィット税 (e x 35%) | – | PhP53,846 |
(g) 総コスト (a + f) | PhP142,857 | PhP153,846 |
計算例-1のように、評価額が50%に減額されるコンドミニアム家賃等の場合には、福利厚生として支給しフリンジベネフィット税を負担した方が、総コストとして抑えられることになります。一方で計算例-2のように評価額の減額が無いその他費用の場合は、個人所得税を加味した給与として支給した方が低く抑えられます。繰り返しになりますが、あくまで上記計算例は比較のために条件を簡素化したものですので、実際に支給方法を検討する際には個別の条件を加味して比較検証する必要があります。
なお福利厚生等の支給額は、原則として税務上の損金計上が認められますが、Official ReceiptまたはSales Invoiceを入手していることが前提となります。フリンジベネフィット税が生じる典型例である駐在員コンドミニアムの場合、家主からOfficial Receiptが発行されないことも多く、税務調査において損金算入が否認されるケースが散見されますのでご留意ください。
4. フリンジベネフィット税の申告・納税
フリンジベネフィット税は各四半期終了月(3月、6月、9月、12月)の翌月末が期限となっており、四半期単位で申告・納税を行います。