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フィリピンの移転価格税制に関する新しい申告書

2020.08.18

2020年7月8日付の歳入細則第19-2020号(RR No.19-2020)において、移転価格税制に関する新しい申告書(関連当事者取引の申告書:BIR1709)の導入が発表されました。フィリピンの移転価格税制については以前から「いつ本格的な税務調査が開始されるのか」が注目されていましたが、今回の発表は税務当局が移転価格税制の調査に本腰を入れるきっかけになりそうな内容となっています。 今回はこのRR No.19-2020およびフィリピンの移転価格税制について、その注視すべき点をお伝えします。

1.RR No.19-2020における2つのポイント

RR No.19-2020には2つの大きなポイントがあります。

1つはBIR1709という申告書の形で、関連当事者取引の情報を毎年内国歳入庁(BIR)へ提出しなければならないという点です。RR No.19-2020の中で「BIR調査官はBIR1709およびその添付書類により関連当事者取引をチェックし、財務諸表における収益の過少計上および費用の過大計上を調査すること」と記載されています。これは今後の税務調査においては、BIR1709およびその添付書類にもとづいて移転価格税制の調査が実施されるということを意味していると考えられます。

もう1つは、BIR1709に添付して提出することが必要な書類の中に移転価格文書が含まれている点です。以前から「移転価格文書を作成・保持し、BIRから要求があった場合は提出すること」が求められていましたが、これまでは実際に移転価格文書の提出を求められるケースはあまり多くなかったかと思います。しかしながらRR No.19-2020では、BIR1709に添付すべき書類として、関連当事者取引の契約書や関連当事者取引にかかる源泉税の申告書などに加え移転価格文書が挙げられており、今後は毎年移転価格文書の提出が必要になると考えられます。

2.注意が必要なRR No.19-2020の適用開始時期

RR No.19-2020は新聞公告の15日後から有効ということで、2020年7月25日から有効になりました。BIR1709は年次法人税申告書に添付して提出することが求められるため、その提出期限は年次法人税申告書と同様、決算期末日後105日以内ということになります。

日系企業で多く見られる3月決算会社においては、年次法人税申告書の提出期限が2020年7月15日であるため当初適用対象外と思われました。しかし2020年7月29日付けのRMC No.76-2020において、2020年7月30日が提出期限となる年次法人税申告書の添付書類(監査済み財務諸表など)が2020年7月25日時点で未提出の場合、RR No.19-2020の適用対象となることが発表されました。このため、3月決算会社でも2020年3月期からRR No.19-2020の対応が必要となる場合がありますのでご注意ください。なお、3月決算会社のBIR1709およびその添付書類の提出期限については2ヶ月間の延長が決定され、2020年9月30日が提出期限となっています。

2020年9月16日更新情報                                       2020年9月15日付のRMC No.98-2020においてBIR1709およびその添付書類の提出期限が以下のように延長されました。(原文はこちらRMC No. 98-2020

決算期 提出期限
2020年3月期・4月期 2020年12月29日
2020年5月期・6月期 2021年1月31日
2020年7月期・8月期 2021年3月1日
2020年9月期・10月期 2021年3月31日
2020年11月期・12月期 2021年4月30日

 

3.フィリピンの移転価格税制における2つの特徴

これまでは様子見をしていたような会社でも今回のRR No.19-2020を受けて移転価格税制の対応を開始されるところがあるかと思います。この機会に改めてフィリピンの移転価格税制における2つの特徴をお伝えします。

1つ目の特徴は、フィリピン国内取引も対象となる点です。移転価格税制は海外の関連当事者間の取引による所得移転を防止するためのものであり、通常は国外取引のみが対象となりますが、フィリピンでは国内取引もその対象となっています。これはフィリピンにおいてフィリピン経済特区庁(PEZA)登録企業など税制優遇措置を受けている企業が国内にあり、一般企業と税制優遇措置を受けている企業間の取引では国外取引と同様に所得移転が起きうるためと考えられます。ただし、制度上は一般企業と税制優遇措置を受けている企業間の取引だけでなく、一般企業間の取引においても移転価格税制が適用されることとなっているので留意が必要です。

2つ目の特徴は、金額基準がないという点です。例えば日本においては移転価格文書(うちローカルファイル)の同時文書化義務は、前事業年度の取引額が50億円以上、または無形資産取引金額が3億円以上の会社に対してのみ課せられており、この金額基準に達しない会社において同時文書化義務は免除されています。フィリピンではこのような金額基準がないため、関連当事者取引のあるすべての会社に対してRR No.19-2020にもとづくBIR1709や移転価格文書の作成・提出が求められることとなっています。このためその対象範囲が広くなっています。

※同時文書化義務とは法人税申告書の提出期限までに移転価格文書を作成しなければならないという義務になります。

移転価格税制の対応、特に移転価格文書の作成は手間のかかるものであるため、なかなか前向きに取り組みづらい面があるかもしれません。一方で、移転価格文書作成にあたり関連当事者取引の取引内容分析、リスク分析、価格分析を行うことで、採算性の低い取引・活動や同業他社に比べ優位性のある取引・活動の洗い出しができ、結果としてグループ全体の経営状況を可視化できるというメリットもあります。

今後RR No.19-2020の規定がどこまで厳格に適用されるのか現時点では何ともいえませんが、フィリピンでの移転価格税制課税のリスクは確実に高まってきていると考えられます。このため特に関連当事者取引が多い企業においては早めに対応されることをおすすめします。

(歳入細則原文はこちらRR 19-2020

 

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(朝日ネットワークス・フィリピン 公認会計士 宇井俊治 ui@asahinet.asia