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税務コンプライアンスを向上させ、税務リスクを軽減

2018.03.30

最近、業績を優先するあまり、コンプライアンスを置き去りにした結果、社会的非難にさらされる企業のニュースをよく耳にします。税務コンプライアンス(納税者が納税義務を自発的かつ適正に履行すること)についても、その欠如は、追徴課税、税務訴訟などの財務リスクだけでなく、実態が公になった場合の風評リスクを招き、それが、企業の売上や資金調達に影響を与えることにもなりかねません。

税務コンプライアンスを向上させるためには、「企業のトップマネジメントが税務について自ら適正申告の確保に関与し、必要な内部統制を整備すること」が必要です。これを、税務に関するコーポレートガバナンス(税務ガバナンス)と言います。

我が国の課税当局である国税庁も、大企業の税務コンプライアンスの維持・向上に向けた以下のような取組を推進しています。

   1.税務に関するコーポレートガバナンス(税務ガバナンス)の充実に向けた取組

   2.大規模法人の「申告書の自主点検と税務上の自主監査」を推進

   3.「移転価格ガイドブック~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~」の公表

1.国税庁の税務ガバナンスの充実に向けた取組

国税庁は、平成28(2016)年6月、「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組の実務実施要領の制定について」(事務運営指針)を公表しています。

<指針の対象法人>

当該指針の対象となるのは、実地調査が行われる国税局特別国税調査官所掌法人(資本金がおおむね40億円以上の法人が該当すると考えられる。)です。

<指針の主な内容>

①税務ガバナンスの確認

  • 税務調査の機会を利用して、「税務に関するコーポレートガバナンス確認表」の作成を納税者に依頼

 ②税務ガバナンスの判定

  • 確認項目の評価・判定(税務調査への対応状況や帳簿書類等の保存状況も勘案)

③トップマネジメントとの面談

  • 調査結果の説明、評価の低かった事項についての効果的取組事例の紹介、トップマネジメントとの意見交換

④税務ガバナンス判定結果の活用

  • 判定結果は、調査必要度の重要な判断材料の1つとして活用

⑤税務ガバナンスの状況が良好な法人への対応

  • 税務ガバナンスの状況が良好であり、調査結果に大口・悪質な是正事項がなく調査必要度が低いと判断される法人については、一般に国税当局と見解の相違が生じやすり取引等を自主的に開示(自主開示)し、その適正処理を当局が確認することを条件に、調査間隔を延長する。

⑥調査間隔延長後の実地調査における対応

  • 次回の実地調査の際に税務ガバナンスを再判定し、調査間隔の見直しを行う。

2. 大規模法人の「申告書の自主点検と税務上の自主監査」を推進

国税庁は、平成27(2015)年3月、納税者による自発的な適正申告の推進のため、調査課所管法人(資本金1億円以上の法人等)に向けて、税務申告書提出前に、申告書の自主点検や税務上の観点からの自主監査を行う際に活用するための確認表を公表しています。確認表は下記の2種類があり、国税庁のホームページに掲載されています。

「申告書確認表」:提出直前の申告書の自主点検用

「大規模法人における税務上の要注意項目確認表」:申告書を作成する前の決算調整事項や申告調整事項の把握漏れ等の自主監査用

これらの確認表は、税務署への提出は不要で、申告誤りの未然防止、税務調査で処理誤りが指摘されるリスクを軽減するものとされています。

3.「移転価格ガイドブック~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~」の公表

国税庁は、平成29(2017)年6月に、「移転価格ガイドブック~自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて~」を公表しています。

これは、OECD/G20のBEPSプロジェクトの進展や、移転価格文書化制度の整備などの移転価格を取り巻く環境変化の下、移転価格税制に関する納税者の自発的な税務コンプライアンスを高めることを目指し、国税当局の事務運営(取組方針、具体的な施策)を見直すとともに、納税者の予測可能性や行政の透明性を向上させることを目的としています。

このガイドブックには、「同時文書化対応ガイド」として、移転価格文書の1つであるローカルファイルの作成サンプルなどの、実務に有用な情報が掲載されています。

企業は、そのトップマネジメントの積極的な関与によって、税務ガバナンスを充実させ、税務コンプライアンスを遵守することによって、税務リスクというマイナス要因を取り除き、さらなる成長・発展を目指したいものです。

以上