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【CHINA】日本の不動産を所有する中国人の相続税問題について
2025.07.23
※ 本ブログはBUSINESS PARTNER株式会社BPアジアコンサルティング の原稿提供により掲載しております。
東京23区のマンション平均価格が1億円を超えたという報道に、ため息をつく方も多いかと思います。不動産価格が上昇することは決して悪いことではないのですが、価格上昇の要因には外国人、特に購買力のある中国人による不動産購入もあろうかと思います。今回は相続税をポイントに中国人が日本の不動産を購入する場合の各種問題を解説します。
購入の背景
円安の影響もあり、世界に比べて日本主要都市の不動産価格は確かに安いかもしれません。北京や上海の都市部でマンションを購入しようと思えば1千万元(約2億円)では足りないでしょう。しかし中国人にとって日本の不動産が魅力的なのは、価格だけではないと思われます。
中国の土地は国家(または農村等の集団)のみが所有し、個人・法人はその使用権しか取得できません。とはいえ居住用の土地使用権の期間は70年もあり、満期になった際の更新料も現時点では無償としている地域が多数なのですが、やはり所有権自体を持つことに魅力を感じる中国人の心境は理解できます。
もちろん他にも所有権を取得できる国はありますが、日本は地理的にも近く管理がしやすいことから選ばれているのだと思われます。
相続税の課税対象
所有者が何人かは関係なく、日本国内の財産(例:日本の不動産や日本法人の株式など)は全て相続税の課税対象になります。従って、日本の不動産を所有する中国人が亡くなった場合、これを相続する方には相続税が発生します。
一方、中国には相続税の制度自体がありません。このため一般的な中国人は日本に相続税制度があることのみならず、相続税とはそもそもどんなものか、知らない方が多いと思われます。
「日本の不動産は永遠に所有できる」との期待が購入動機であっても、その検討において日本の相続税をほぼ考慮していないのが現状です。
購入の方法
中国は外貨管理規制が厳しく、中国人個人は年間5万ドル(約7百万円)しか対外送金ができず、且つ投資使用はできません。従ってまず中国で法人を設立し、この中国法人(親会社)が日本法人(子会社)を設立、資本金を送金し、この日本法人が日本の不動産投資を行う、という方法が用いられます。
(注:この方法でも、中国法人にて商務部や外貨管理局の許可を得なければならず、相当のハードルはあります。)
もちろん、中国出資者が皆この方法を採用しているとは限らず、各人が持つ資産状況(例:香港に一定の資金がある、等)に応じ、それぞれの方法で日本へ投資をしていると思います。
従って、香港にある資産から直接日本へ送金できるような方は、日本で法人を設立せずとも不動産の購入は可能でしょう。
但しここで日本のビザ問題が絡んで参ります。日本の居留許可にはいくつかの種類がありますが、日本で法人を設立すれば経営管理ビザの取得が可能となる(注:その他各種条件あり)ため、あえて日本で法人設立する方も多いと思われます。
現状と相続税の問題の比較
前述の通り、中国人個人が所有する日本の不動産は相続税の課税対象ですが、不動産の所有者が日本の法人であり、且つその日本法人は中国や香港企業の子会社であった場合はどうなるのでしょうか。
(これら法人の最終出資者は中国人個人であり、日本の不動産の実質的オーナーは中国人個人を想定します)
この場合、中国人個人が亡くなっても、日本不動産の所有者は変わらず日本法人であり、相続税の課税対象にはなりません。
次に日本法人の株式ですが、これも国内財産で相続税の課税対象であるものの、その株式所有者は中国・香港法人であり、これも相続税の課税対象にはなりません。
(注:日本法人の株式所有者が中国人個人というケースも想定されますが、前述のように個人による中国大陸からの対外送金の制限や日本の居留許可問題から、日本法人の株式所有者は中国法人・香港法人としているケースが多いと思われます。)
以上より、中国人出資者は特段相続税対策を検討していなくとも、結果的に相続対策ができている投資スキームが成立します。
相続税の立法趣旨は、富の再配分と所得税との整合性(相続財産を得ること)にあります。しかし本例の場合その富は海外で構築されたものでありそれを日本で課税することの是非、また所得税との整合性についても相続人は直接日本の財産を取得していません。これらは相続税の制度設計・想定する背景を完全に超えていると思われます。
現に相続税は各国租税条約の対象外であり、国家間での二重課税を明確に整理されておらず、相手国の相続税制度の有無、相続人の範囲の違い、そして相続財産の所在地と課税範囲など、国をまたぐ相続の実務は非常に複雑です。
外国人による日本の不動産取得ブームはここ最近のことであり、相続が発生する時までまだ相応の時間があるかもしれませんが、時代背景に即した税制度の見直しがなされるかもしれません。
株式会社BPアジアコンサルティング(BP日本)・上海麦統商務諮詢有限公司(BP中国)では日本・中国双方に専門の公認会計士を配置しており、日中双方の課税問題に関するサポートや中国個人所得税の申告納税代行業務も行っております。ご不明な点等ございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
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