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【CHINA】中国におけるリストラ・解雇と経済補償金の実務

2025.06.18

※ 本ブログはBUSINESS PARTNER株式会社BPアジアコンサルティング の原稿提供により掲載しております。

米中関税問題や中国自動車業界における急速なEV化などを受け、サプライチェーンの見直しが加速する中で、中国拠点の再編を検討する企業グループも多く見られます。
再編の過程には現地社員のリストラや法人清算に伴う一斉解雇など、経済補償金の問題は避けられません。今回はこれらの実務におけるポイントを解説します。


経済補償金について

日本の退職一時金に相当する中国の経済補償金は法律(労働契約法)に基づき企業に支払義務が求められます。

その金額は基本的に「勤続年数×月給」で計算されます。計算例は以下の通りです:

単位:元

勤続
年数

月給

当地平均給与
の3倍(注)

計算基数

経済補償金

社員A

3年

15,000

36,000

15,000

45,000

社員B

5年

40,000

36,000

36,000

180,000

合計(N)

 

 

 

 

225,000

(注:月給が当地の平均月給の3倍を超える場合、この3倍が計算基数の上限となります)

ここで、法定の経済補償金(以下「N」とします)だけを支払えば、実際にリストラが可能かという点が問題となります。

リストラには整理解雇から会社清算による一斉解雇まで様々ありますが、整理解雇の場合、当然労使協議で合意した経済補償金(=通常法定よりも高い)を支払います。一方会社清算は労働契約法に基づく労働契約の終了規定に当たるため、Nだけを支払えば「法律上」問題ありません。

これを受けて会社清算時における解雇はNだけを支払えばよい、と思われがちですが、そう簡単には行かないのが現実です。

現地社員にとって会社清算は、ある日突然全社員が解雇されるわけでその衝撃は相当なものです。社員の理解を得るためには、法定以上の補償金を加算することが一般的であり、「プラス1カ月分の月給を加算する場合はN+1、プラス2カ月ならN+2」などと表現されます。

具体的にどの程度加算するかは、当地の過去の他社事例を参考にするのが一般的です。日系企業団体情報や、弁護士等による各種情報検索をもってこれらを検討します。

また当地の労働当局に相談することもあります。しかし彼らは当局という立場上、積極的な情報提供やYES/NOといった判断を言ってくれるものではありません。

ここで当局は決して過度な加算を求めているのではないことを理解する必要があります。これは逆に高額な追加補償を行うと、それが前例となり、今後の撤退企業が同様の条件を提示できず労働争議に発展することも考えられるためです。つまり彼らは地域の企業・労働者関係が安定することを望んでおり、積極的情報を引き出すことは難しくとも、相談の中で何か参考となる意見が得られるかもしれない、と考えるべきです。

そして最終的に企業自らが加算額を決定します。


解雇について

会社清算や解雇の実務では、社員から解雇通知及び承諾書への合意署名を取得することが求められます。その際の社員の反応は概ね以下に大別されます:

    • さっさと承諾書に署名して早く次の新会社に転職したい
      (近年の中国の労働・経済環境悪化より一般的には少数)
    • 自分だけが不利にならないように周りの様子を見てから決めたい(通常多数)
    • 自身の条件の引き上げを図ろうとする
      (会社への不満、残業、有休の扱い、その他法的問題の指摘など、内容は多岐にわたる)
    • 徹底抗戦をする、場合によっては外部のコンサルや専門家を入れてくるケースもあり

ここで法律上の効果について確認しますと、実は会社清算では社員に対する一方的な通知によって労働契約を終了することができ、特に争議が無ければ承諾書の署名がなくともそのまま会社清算を完了することができます。

しかし、もし社員が反発して労働当局にクレームや仲裁を申し立てると、会社の社会保険システムや各種信用システムに「事件未解決」と登録され、事実上会社清算手続が進められなくなります。

従って現実的には社員から合意済み承諾書を入手し、清算手続を進めることになります。

社員も、承諾書に署名することは全てを終わらせることを意味しますので署名も慎重になり、反発が生じる可能性もあります。しかし、だからと言って小出しに加算を増やす、反発する一部社員だけ加算するという方法は逆効果です。

SNSが発達している中国では社員側も情報知識が豊富です。例えば華南地区の清算案件では、華東地区の某日系企業が1.5N、つまり法定経済補償金の1.5倍を支給したという事例を社員が指摘してきた案件もありました。

確かに○倍を加算、というと聞こえはいいのですが、これは勤務年数が短い会社の場合は逆にプラス○カ月よりも低くなるケースもあり得ます。
(例:平均勤続年数が1.5年以下だと、1.5NよりもN+1のほうが金額は大きくなる)

SNS上の有利な情報だけが一人歩きすることは多く、それが交渉をさらに複雑化させる要因となります。しかし会社は法律規定を順守するのはもちろんのこと、社員の状況も鑑みできる限りの加算を提示し、その条件は変わらないことを軸に、誠意をもって、かつ整然と交渉を進めることが解雇の合意を得るためには不可欠です。

これらが中国のリストラ・解雇が難しいと言われる点になります。


株式会社BPアジアコンサルティング(BP日本)・上海麦統商務諮詢有限公司(BP中国)ではこれら会社清算における事前のスキーム検討や、清算における行政手続、社員解雇対応など一連のサポートをしております。ご不明な点がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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