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CHINA
【CHINA】中国の土地使用権譲渡スキームについて
2025.06.10
※ 本ブログはBUSINESS PARTNER株式会社BPアジアコンサルティング の原稿提供により掲載しております。
米中関税問題や中国自動車業界における急速なEV化などを受け、サプライチェーンの見直しが加速しています。これを受け、中国製造拠点の整理を検討している企業グループも多くみられます。
中国製造拠点の整理には様々な課題が発生しますが、その中でも土地使用権の整理は重要度の高いポイントの一つです。例えば現地法人を清算する場合、保有する土地使用権を売却整理しなければなりませんし、M&Aの手法により、土地使用権を所有する企業ごと売却することも考えられます。本記事ではこれら土地使用権譲渡スキームの違いにおける各ポイントを解説します。
土地使用権譲渡スキームにおける最大のポイントは土地増値税にあります。
土地増値税とは不動産の投機的取引抑制を目的にした中国の税制(注1)であり 、不動産譲渡における価値増加分(=譲渡益に相当)に対して課税をするもので、その税率は30%~60%と高率です。
そして土地増値税の納税者は譲渡益を得た法人・個人となるのですが、この「土地増値税」は、一般の商品販売等における販売増値税から控除できず、租税公課として費用処理しなければなりません。
(注1)土地増値税の対象は建物及びその附属物も含まれますが、本紙では土地使用権を中心に記述します。
特に中国では著しい経済発展により不動産価格も高騰し、その増値率が相当となっている企業も多くみられます。増値率が200%を超える部分には最高税率の60%が適用され、たとえ売却益が出てもその大部分が税コストとして流出してしまいます。
この負担を回避すべく、土地使用権を保有する企業ごと譲渡するスキームが考えられます。この方法では土地使用権そのものの売買契約は発生せず、あくまで企業持分の譲渡として処理されます。従って土地増値税も発生しない、というのがこのスキームのポイントです。
しかしこの方法には問題・リスクがあります。当該企業に事業実態はなく、保有資産は土地使用権のみでありその取引実態は土地使用権の譲渡であるような場合、税務当局が実質課税原則を適用し、土地増値税の課税対象とする可能性があります。
この実質課税原則とは形式よりも実質を重視するという中国税法の基本的考えですが、具体的に何があれば・なければいいのか等、その内容・数値基準が明確ではないので企業側もその判断が難しくなります。
ここで企業とはヒト・モノ・カネが有機的に結合したものであり、これを第三者に承継させるのがM&Aであることから、これに合致しない土地使用権を持つ企業の譲渡はそのリスクが高くなる、と考えるべきです。
また、土地使用権の買手側から見ても、土地使用権を保有する企業買収の場合、各種調査(デューデリジェンス)が必要となるなど、その手間コストは高くなります。また土地増値税リスクが存在する場合、そのリスクを負担するのは買手側になり(買収後に土地増値税の追徴が発生、等)、望ましいスキームではありません。
買手側の負担軽減のため各種調査を不要にすべく、売却側企業にて特定目的会社(SPV)を設立し、このSPVに土地使用権を譲渡した後、SPVごと売却する、というスキームの深化もあります。これは同一企業グループ内の土地使用権の譲渡には増値税は課税されないという通達(注2) を利用したものなのですが、SPVを買手企業に売却してしまうとその時点で同一企業グループではなくなりますので、本通達は適用できません。
(注2) 財政部税務総局公告2023年第51号
このように土地使用権保有企業の譲渡スキームは税務リスクがあり得策ではないのですが、中国現地ではこのスキーム事例を見かけることがあります。
これは以下の理由が考えられます。
- 土地増値税リスクに対する認識不足
土地使用権を直接売買しなければ土地増値税は発生しないという誤った認識、理解不足により、安易にこのスキームを採用してしまうケースです。
- 当局による追徴・指摘の状況
土地使用権保有企業の持分を譲渡しても、当然土地使用権の所有者は同じ企業のままであり、また、その実態が土地使用権の譲渡に該当するのか、純粋な企業買収・M&Aに該当するのかの判断は、実務上も煩雑であり、当局にとっても容易ではありません。
結果、その実態は土地使用権の譲渡に該当する企業売買に対し、土地増値税の追徴指摘が追い付いていない現実もあります。
- 仲介業者の存在
中国の工業用土地使用権には日本のような不動産仲介業者が存在しません(注3) 。これは工業用土地使用権は、当地の開発区など地元当局が管轄しており、自由に転々流通する物件ではないことが要因です。
一方M&A・企業持分の売買には中国にも仲介業者が多数あり、M&Aを成立させれば相応の報酬が成立します。
つまりこのような仲介業者からみれば、土地使用権ではなく企業持分として売買をあっせんしたほうが手数料収入が見込め、あえて持分譲渡による土地使用権譲渡スキームを提案してくる業者もあります。
そしてこの提案を受けた現地法人側も、土地増値税が回避できるのなら、とその提案に乗ってしまうのです。
(注3)住宅用マンションなどは中国にも不動産仲介業者があります。
弊社が見た事例では、土地使用権保有企業には別途税務欠損金があり、将来課税所得が発生しても税務欠損金の枠内までは企業所得税負担が発生しない、というアピールをしている案件までありました。
中国現地法人が持つ土地使用権の再編・整理を検討する際に、本件のようなスキームが中国現地より提案されてきた場合、その内容、目的、リスク等を十分検討することが重要です。
株式会社BPアジアコンサルティング(BP日本)/上海麦統商務諮詢有限公司(BP中国)は日本・中国の公認会計士、CPAからなる会計税務の専門コンサルティングファームとしてM&A・組織再編スキームの事前検討やその実行、会社清算の実務運営サポートなど一連のサービスを提供しています。不明点ございましたらいつでもお問い合わせください。
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