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移転価格リスクと向き合う②
移転価格リスクとは?

2014.07.25

昨年(2013年)の8月22日の日本経済新聞電子版は、「<東証>オリンパスが一時10%安 「103億円申告漏れ」と伝わる」という見出しで、次のようなニュースを掲載しました

「(11時20分、コード7733)急落。一時前日比292円(10.2%)安の2560円と、5月7日以来3ヶ月半ぶりの安値を付けた。22日午前に日本経済新聞電子版などが「オリンパスが国内子会社と英国子会社の取引を巡って東京国税局の税務調査を受け、移転価格税制に基づき5年間で約103億円の申告漏れを指摘されていたことが22日、分かった」と伝え、売りが急速に膨らんだ。」

新聞報道の「○○億円の申告漏れ」という表現に株式市場は敏感に反応します。「見解の相違」であろうとなかろうと、この「申告漏れ」というキーワードは一人歩きし、企業イメージを大きく損ねかねません。 

本稿では移転価格課税に係るリスクを「移転価格リスク」とよぶことにします。移転価格リスクとして主に次のようなものがあげられます。

【移転価格リスクとは?】

① 税務調査が長期化しやすく、企業の価格決定に影響を与えること

平成23年度の国税通則法の改正により、原則として税務当局による一般の法人税調査と移転価格調査は1つの調査として実施されることになりました。その結果、最近では一般の法人税調査において移転価格に関する資料要求が行われています。当該資料は移転価格チームに回され、移転価格上の問題がありそうであれば、本格的な移転価格調査に移行します。

一旦、移転価格調査が始まれば、その期間は通常1~2年程度の長期にわたる可能性があります。また、税務当局から膨大な資料を要求され、その対応には多くの労力と費用が掛かるのが常です。さらに、調査の結果、移転価格を修正されれば、実際の取引価格の見直しをせざるを得なくなり、企業の価格決定に重要な影響を与えます。

② 税務当局との見解の相違が起こりやすく更正される可能性が高いこと

移転価格税制のもとでは、企業と海外子会社等との間の取引価格を、現実の取引価格ではなく、独立企業間において通常設定される価格(独立企業間価格)を用いて、課税所得を計算します。この独立企業間価格に関しては、その算定方法や比較する第三者取引の相違など、税務調査において税務当局との「見解の相違」が生じやすくなっています。したがって、調査で更正される可能性も自ずと高くなります。

なお、海外子会社への役務提供や技術供与等に関してよく見られるのですが、その料率が低すぎる場合に、移転価格課税ではなく寄附金課税(海外子会社等への寄付行為であると判断し課税すること)が行われる場合がありますので注意が必要です。

③ 国際的二重課税が生ずること

税務当局による移転価格課税に係る所得更正の怖さは、同一の所得に関して国際的二重課税が生じることです。日本企業の海外子会社への輸出価格が低すぎるとして、日本の税務当局に所得の増額更正を受けた場合を考えましょう。この場合、子会社が所在する現地国の税務当局は、原則として、子会社の輸入価格が高すぎたとして、対応的に所得の減額更正をしてくれるものではありません。よって、同じ所得に、日本でも当該現地国でも二重に税金を払うことになり、無駄な税金コストが生じます。

④ 更正金額が多額になりやすいこと

移転価格、すなわち、取引価格の単価が修正されれば、売上等の金額は単価の修正分に数量を乗じた金額が所得修正額となります。また、通常の法人税の所得の更正期間は通常5年であるのに対し、移転価格課税の更正期間は、日本では6年に延長されています。したがって、税務当局は過去6年間にさかのぼって所得を更正することが可能であり、課税金額も多額になる傾向にあります。なお、中国などでは、更正期間が10年ですので注意が必要です。

⑤ 事業・株価への影響があること

冒頭のオリンパスの例のように、税務当局による所得更正に関する新聞報道は、必ずと言ってよいほど「申告漏れ」という見出しを使います。その企業イメージへの影響は大きく、上場企業であれば株価の下落を引き起こしかねません。

⑥ 事後対応のコストがかかること

税務当局に所得を更正された場合には、不服申立て、相互協議などの納税者の救済方法が設けられています。しかし、手続きには時間を要し、内部の事務コストや外部の専門家に支払うコストが多額にのぼるケースが少なくありません。

 いずれにせよ、移転価格リスク対策は、経理部門・税務部門だけでなく、事業部門も参加の上、トップマネジメントの意思決定事項に取りこむべき重要な経営課題といえるでしょう。

 以上